AIは透明性があってこそ、信頼に値する

image representing responsible ai

AIがデータを深く理解し、それに基づいて、より迅速かつ適切な意思決定を行うという可能性は、日を追うごとに実現味を増しています。

しかし、サプライチェーンやロジスティクスでは、小さなミスが重大かつ高額な危機へと発展しかねません。 project44のCTO(最高技術責任者)として、AIのレベルをさらに向上させる取り組みには、責任を第一に考える姿勢が不可欠であると強く信じています。 私たちの意思決定、より正確には、私たちが設計したAIが下す意思決定は、人々の生活や生計に影響を与える可能性があります。だからこそ「責任あるイノベーション」こそが、唯一進むべき道であると考えています。

責任あるイノベーションこそが唯一の進むべき道であるという考えのもと、project44のAI開発では、次の2つの重要な原則に重点を置いて取り組んでいます。

  • 解釈可能なアウトプット(Interpretable Output):インターフェースに透明性を組み込むことで、AIによるアクションをユーザーが確実に理解できるようにします。
  • システムの冗長性(System Redundancy):AIによるアクションが、利用可能な中で最も正確なデータとモデルによって確実に裏付けられるようにします。

AIの幅広い導入と、そこから得られる深い価値を実現するためには、エンドユーザーやサプライチェーン責任者の双方の「信頼」を築くことが欠かせません。 これらの原則に則ることで、私たちは、グローバルなサプライチェーン業務において、強力であるだけでなく、信頼できるAIの実装を目指しています。

解釈可能なアウトプット:AIによるアクションの明確化

解釈可能なアウトプットとは、ユーザーがAIエージェントによる行動とその理由を常に理解できることを意味します。 具体的には、この原則は、AIによる意思決定や推奨を人間の言葉で分かりやすく説明できるようなシステムの構築を目指すということです。

AIが物流センターで貨物を留め置くよう提案したり、配送トラックのルート変更を推奨したりした場合、その理由をユーザーが分かるようにする必要があります。 その判断に影響を与えた要因やその根拠――たとえば交通渋滞、センサーの反応漏れ、気象警報、その他の引き金となった出来事――を、ユーザーが即座に確認できる必要があります。

解釈可能なアウトプットを前提に設計することで、AIは不可解な「ブラックボックス」のような存在ではなく、AIの判断理由をしっかりと説明できる、有能な同僚のように振る舞えるようになります。

では、これがproject44のプラットフォーム上でどのように具現化されているか、2つの例を見てみましょう。

透明性のあるETA(到着予定時刻)予測

お客様は、ETA予測に使用するインプット要素(考慮するイベントと無視するイベント)について明確な情報を求めることがよくあります。 そこで弊社はこの問題に対処するために、各ETAの「材料」を可視化するようにしています。

具体的には、ETAに影響を与える主要な要素を、停止時の滞留時間、マイルストーンの完了状況、GPS信号の品質、ルート逸脱の有無、さらには時間帯ごとの交通パターンなど、異なるグループに分類しています。 当社のプラットフォームは、これらの要因をリアルタイムで追跡しており、ETAに大幅な変動を検出した場合は、一定時間ごとに更新するローリングタイムウィンドウ方式で確認しています。これにより、重要な変動が確実に記録・説明されるようにしています。

例えば、予定外の滞留イベントが原因で遅延が発生し、ETAが午後2時から午後6時に変更されたとします。この場合、ユーザーには次のような更新情報が表示されます「ETAが変更されました。理由: 施設Xでの予定外の停止により到着予定時刻が調整されたため」。 さらに、ETAの推定に大きな変化が生じた場合には、この仕組み(ローリングタイムウィンドウ方式)を通じて自動的に変動を追跡・報告します。 これにより、ユーザーはETAの突然の変更に驚かされることがなくなり、その変更の具体的な理由も確認できます。

このように、変動を体系的に追跡し、その文脈の説明を提供することで、ETA予測に対する信頼を築きます。ユーザーは、なぜその到着時刻予測に至ったのか理由を理解することで、十分な情報に基づいた的確な意思決定ができるようになります。

説明可能なAIアシスタント

こうした透明性の考え方は、弊社プラットフォームのAI搭載デジタルアシスタントにも適用しています。

たとえば、サプライチェーン・アシスタント「MO」は、サプライチェーンに関する特定の質問(例:貨物情報の取得)に迅速かつ正確に答えるよう設計されています。 弊社は、いわゆるチャットボットの「思考の裏側」を可視化し、その推論プロセスをユーザーに示す仕組みをもつ「説明可能性(Explainability Module)」モジュールを構築しました。 このモジュールの役割:

  1. SQLクエリの作成プロセスの分解
  1. 参照しているデータベースのテーブルやフィールドの提示
  1. 回答を導き出すために適応された論理構造

たとえば、ユーザーが「本日遅延している出荷はどれですか?」と質問した場合、 MOは単に回答を表示するだけでなく、その根拠もユーザーに提示します。 裏側では、AIアシスタントはその自然言語の質問をデータベースのクエリに変換しつつ、ユーザーに対してはそのクエリを分かりやすい言葉で説明した情報を表示します。 つまり、AIアシスタントは実際の到着時時刻が予測到着時刻より遅れている貨物を効率的に探しながら、 説明モジュールには次のようなメッセージが表示されます。「遅延貨物を判定するために、実際の到着時間actual_arrivalが予測の到着予定時刻predicted_arrivalより遅れているすべての貨物について、出荷データベースを確認しました。」

このレベルの解釈可能性は、企業環境において非常に価値があります。ユーザーは、AIが根拠もなく飛躍的な判断を下すのではなく、十分に訓練されたアナリストのように、しっかりとビジネスルールやデータに基づいて行動していることに信頼を置けるようになります。

システムの冗長性:精度と信頼性の確保

project44が掲げる責任あるAIの第2の柱は、システムの冗長性(System Redundancy)です。 この原則は、AIの性能は、それを支えるデータとシステムの質に依存するという認識に基づいています。

リスクを最小限に抑えるため、我々のAIワークフローには、複数層にわたる検証およびバックアップの仕組みを組み込んでいます。 つまり、私たちは、ひとつの誤りが見逃された結果として不適切な意思決定につながるような、単一障害点や唯一の情報源を持つことを避けています。 AIによるすべての判断や行動は、常に最も正確かつ最新の利用可能な情報に基づくべきです。 そして可能な限り、出荷や在庫といった物理的な世界に影響を与える前に、別のモデル、データセット、またはルールセットによって相互確認が行われるべきです。

データ深度と冗長性

project44プラットフォームは、他に類を見ない規模でサプライチェーン全体のデータをリアルタイムに統合しています――本当に、project44は世界最大のサプライチェーン・データセットを保有しているのです。そして、我々はAIエージェントを開発する前から、このデータを最大限に活用しています。

2億5,500万件以上の出荷データと、200万社以上のキャリアをネットワークに要するproject44は、世界最大のサプライチェーンデータセットを保有しています。 project44のシステムは、北米で1日あたり約330万件の陸上輸送貨物位置情報を処理し、グローバルな海上輸送では1日あたり約6600万件の船舶位置情報を処理しています。 これらの数百万件のデータポイント(トラックのGPS座標から港の出発イベント、気象情報まで)は、AIのライブで堅牢なデータ基盤として機能します。 これだけの情報量と多様性があるため、AIの出力を現実と照らし合わせながらリアルタイムで相互検証することができます。 もしある信号が不正確であったり、遅延したりしても、別の信号がそれを補完する可能性があります。 この”データの冗長性”により、弊社アルゴリズムはサプライチェーンの状況を一貫して正しく理解したうえで意思決定を行います。

たとえば、予測モデルが遅延を予測した場合、それを実際のフィールドからの更新情報でその予測を裏付けます。 実際に、このルートで交通渋滞が報告されているか? トラックの最新のピン情報で実際に停止していることが確認できるか? こうした複数の冗長なデータチャネルを通じて検証を行ったうえで、AIによる判断(貨物のルート変更など)を完全に信頼に足るものとします。

アルゴリズムの広範性と冗長性

また、アルゴリズムのレベルでも冗長性を組み込みました。 アーキテクチャは、単一モデルの出力に依存するのではなく、アンサンブル手法(複数のモデルの組み合わせ)やフォールバックルール(代替ルール)を活用しています。 たとえば、モデルAが異常な状況にフラグを立てており、重大なアクションを促す場合、モデルB(または一連のビジネスルール)がその異常状況を再確認するよう求められます。

AIのアクションが大きな影響を及ぼす可能性のあるシナリオ(在庫の自動的な再注文や高価値商品のルート変更など)において、安全策を講じます。これは、別のモデルによる検証であったり、最も重要な意思決定に対しては人間の承認を必要とするプロセスであったりします。 目標は、どのようなAIのインサイトであっても、検証なしに盲目的に信用することがない状態を維持することです。

データ品質の重視

冗長性の中核であるデータの信頼性をさらに強化するために、弊社はAI主導のデータ品質エージェントをプラットフォームに導入しました。

これらのエージェントは、データの問題を特定し修正するために常に稼働しており、AIが誤った情報や欠落した情報に基づいて判断するのを防ぎます。 たとえば、特定のキャリアの追跡フィードが途切れたり、一部の出荷情報に不整合が生じた場合、AIデータ品質エージェントが自律的にそのギャップを解決します。多くの場合、人間が問題に気づく前に、すでに解決されていることがよくあります。 この仕組みにより、お客様のデータの有用性が大幅に向上し、データの欠損が最大50%削減するとともに、キャリアへの手作業によるフォローアップ工数の多くを減少します。 データの完全性と正確性をプロアクティブに確保することにより、不完全なデータが原因でAIが誤った判断を下すリスクを軽減します。

システムの冗長性とは、要するに堅牢性のことに他なりません。つまり、AIシステムのある要素が機能しなくなっても、別の要素が補完し、意思決定の精度と信頼性を維持する――そんな「複数の目」を持つ体制なのです。

サプライチェーン責任者にとって、透明性のある責任あるAIが重要な理由

上記の技法を採用することで、プロンプトの解釈から冗長データ処理まで、AIシステムの説明可能性と透明性を大幅に向上させます。 しかし、説明可能なAIは、単なる理想論ではなく、サプライチェーンやロジスティクスなどの業界にとって戦略上の必須条件になりつつあります。

AIが意思決定に組み込まれるようになるにつれて、責任者たちはこれらのシステムが透明性があり、説明責任を備えていることを保証しなければなりません。 その理由をいくつかご紹介します。

  • 信頼と導入の構築:組織がAI主導型ソリューションを本格的に導入するには、まずそれを「信頼」する必要があります。 説明可能性は、AIの意思決定プロセスを可視化し、その信頼を築く鍵となります。 ユーザーがAIの判断理由を理解できれば、その提案をはるかに高い確率で受け入れやすくなり、導入する可能性も高まります。
  • 公平性と倫理の担保:AIモデルは、過去のデータに含まれるバイアス(偏り)を無意識に学習することがあり、その結果、不公平または最適とはいえない意思決定(例えば、誤った理由で特定のキャリアを体系的に優遇すること)を引き起こす可能性があります。 説明可能なAIの手法を使えば、AIが選択を行う過程を調査することで、道徳的な優先事項だけでなく、しばしば法的な優先事項にも沿っているかを確認でき、こうした偏りを検出して是正するのに役立ちます。
  • 規制対応:物流業界内外の政策立案者は、自動化された意思決定の透明性を求め始めています。 欧州におけるGDPRのアルゴリズム透明性に関する規定や業界固有のガイドラインにおいて、AIの意思決定を説明できることは、急速に「あると便利」から「法的義務」へと変わりつつあります。
  • リスク管理とエラー回避:どんなに優れたAIでも、ミスを犯したり、予期しない状況に直面したりすることがあります。 説明可能性は、これらの問題に対する早期警告システムのような役割を果たします。 モデルの弱点や問題が発生しやすいシナリオを理解することで(これらは通常、意思決定ロジックを分析することで明らかになります)、リスクを事前に軽減することができます。 AIの判断の説明が不明瞭であれば、それが警告となり、被害が発生する前にさらに調査を行うよう促します。 サプライチェーンにおいて、この積極的なアプローチは、製品のバッチの誤配送や顧客の納期遅れなど、コストのかかるミスを防ぐことができます。
  • イノベーションと生産性の向上:AIシステムが透明であれば、当社の製品開発チームとデータサイエンスチームは、より迅速に反復を重ね、改善を進めることができます。 説明可能性により、モデルがなぜ良く機能したのか、あるいはなぜ失敗したのかが明確になり、より良い調整や革新を導く指針が得られます。 その結果、より効率的なAIシステムが効果的に機能し、AIの問題のデバッグにかかる時間とコストを削減します。

つまり、説明可能なAIは、信頼を築き、公平性を守り、法規制に対応し、サプライチェーン全体でのAIソリューションの導入を加速させる鍵となります。 AIを中身の分からない魔法の箱から、誰もが理解し活用できるツールへと変えるのです。

サプライチェーン業務を統括する責任者にとって、説明可能性への投資とは、組織におけるAIの長期的な成功と受容を支える投資に他なりません。

信頼できるAIの先駆けとしてリードする

project44は、ロジスティクスにおけるAIの分野で模範を示すことに尽力しています。 AIが何をできるかだけでなく、あらゆる段階でその動作を理解し、予期しない行動を起こす際の安全対策も講じるために、大規模な投資を行っています。

AI開発において、解釈可能なアウトプットシステムの冗長性を重視することで、ソリューションの安全性、透明性、信頼性を確保しています。 このアプローチがお客様やパートナーとの信頼を高めることを実感しています。彼らは、project44が提供するインテリジェンスを信頼してくださっており、project44とともにより迅速にイノベーションを推進しています。

このバランスの取れたリスク対応戦略により、ワクチン流通、生産ラインのスケジューリング、災害復旧ロジスティクスなどの非常に重要で失敗が許されない業務に、高度なAI(予測的アナリティクスから生成型サプライチェーンアシスタントまで)を安心して導入いただけます。

AIにおける責任あるイノベーションは、一度きりの成果で終わるものではありません。それは、常に進化し続けるプロセスです。 より洗練された機能の開発が進む中でも、project44はAIの進歩と責任ある活用を両立させる最前線に立ち続けることでしょう。 信頼できるAIの基準を高めることは、グローバルなサプライチェーンをより効率的で、強靭かつ信頼性の高いものにし、すべての人に利益をもたらします。project44はこうした考えのもと、今後も学びや取り組みを業界と共有し続けていきます。