ホルムズ海峡封鎖前の予兆

2月28日にイラン海軍がホルムズ海峡の封鎖を発表すると、世界の海運市場に激震が走りました。ハパックロイドは最初の24時間以内に同海峡の航行を停止し、他の主要船社もすぐにこれに追随しました。航行中の船舶が途中で引き返す事態も発生しています。24時間以内に中東発着のコンテナ1本につき最大3,000ドルの「紛争サーチャージ(付加料金)」を発表する一部船社も現れ、運賃は急騰しました。さらに、ホルムズ海峡で石油タンカーが攻撃を受け、炎上する事件も発生しました。

そして、事実上閉鎖されたのはペルシャ湾だけではありません。イラン政府が支援するイエメンのフーシ派武装組織は、紅海を通過する船舶への攻撃を継続することを改めて表明し、サウジアラビアの港湾は東西の両方向から事実上遮断されました。

しかし、project44のネットワーク内ではより重大な予兆が見られました。それは、船舶の進路変更ではなく、貨物のブッキングが減少し、予定されていたコンテナが出発しなかったという事実です。

実際、過去2か月間、ペルシャ湾に向かう貨物のブッキングや出港数は、一般消費者向け消費財および産業製品のレーンで急減しています。なぜこのような動きが起きたかを理解するには、この地域の経済構造の実態を知る必要があります。

原油は輸出、それ以外はすべて輸入

ペルシャ湾諸国は、世界で最も輸出が集中している経済圏の一つです。ほとんどの国において、炭化水素(石油・ガス)が輸出総額の80〜90%以上を占めています。

一方で、消費財、機械、食品、産業資材は逆方向に動きます。これらは主に輸入に依存している経済です。ドバイのジェベル・アリ、サウジアラビアのダマーム、カタールのハマド、クウェートのシュワイクといった港湾は、単なる玄関口ではなく、自動車部品から電子機器、加工食品に至るまで、あらゆる経済活動を支える重要な動脈です。そして、そのすべてがホルムズ海峡という単一のチョークポイントを通過します。

日々の生活や経済活動を海外から届く輸入貨物に頼っている国にとって、特定の海の通り道がふさがること(海上チョークポイント)は大きなリスクになります。石油を生産・輸出する国は出荷のタイミングを調整したり、ある程度ためておいたりすることができます。しかし、輸入側、つまり食品や日用品、部品については、消費を簡単に止めることはできません。つまり、同じ海のルートが止まっても、受けるダメージは輸入に頼る国のほうが大きくなりやすいのです。

輸入のタイミングをあえて調整する判断をしなければ、です。

「動かさない」というリスクヘッジ

過去2か月間のproject44のデータでは、湾岸諸国の港を目的地とする新規出航の大幅な減少が確認されています。project44のグローバル分析によると、アラブ首長国連邦向けコンテナ出港は前年比25%減。クウェートは37%減、カタールは46%減、サウジアラビアは44%減となっています。

輸入業者は、コスト増という財務的リスクと、物流が止まるオペレーション上のリスクの両方を考慮し、出荷タイミングを調整したと考えられます。FOB条件の場合、商品を船に載せて出発地を出た時点で、支払い義務が発生します。つまり、商品がまだ海上にある間も、すでに自社の在庫となります。その後に海峡が封鎖されたり、危険な状態になったりすれば、貨物は港の外で待機したままになるか、進路変更や緊急のルート変更を余儀なくされる可能性があります。海上での日数が重なるごとに、商品は届かないまま、不確実性の中でお金だけが先に拘束されていく状態になってしまいます。

それに加えて:

  • 戦争リスクに伴う付加料金
  • 緊急警備保険料
  • 潜在的な進路変更費用
  • 保険の調整、引き上げ、または解約

こうした負担が重なれば、経済状況は急速に変化します。その結果、多くの荷主にとって、一番コストを抑えられる方法は、「別のルートに変更すること」ではなく、いったん輸入の出荷を止めて様子を見ることになるでしょう。project44がデータで確認したのはパニックではなく、リスクと費用を計算したうえでの、慎重な判断であると考えられます。

輸入業者は、もしホルムズ海峡や紅海が開放され再び安全になれば、その時点で出荷を増やせばよいと考えていることでしょう。船舶の寄港ができるようになれば、サプライチェーンはじきに戻ってくることができます。しかし、コンテナが出発地を出航した後に海峡が封鎖されれば、商品は海の上で足止めされ、在庫コストの上昇、付加料金、そして進路変更による物流上の難題に直面することになります。

サラーラ港:アラビア半島の重要な物流拠点となるオマーンの港

ペルシャ湾と紅海が事実上遮断された今、湾岸諸国が利用できるアラビア半島で唯一の実質的代替港は、オマーンのサラーラです。

ドバイのジェベル・アリ港やペルシャ湾の主要な港とは違い、サラーラ港はホルムズ海峡の外側、アラビア海に面しています。そのため、問題になっている狭い海の通り道を通らなくても立ち寄ることができる港です。

これまでもホルムズ海峡や紅海で緊張が高まったとき、サラーラは「代わりの逃げ道」のような役割を果たしてきました。実際にproject44のデータを見ると、以前は他の港で積み替えられていた貨物が、すでにサラーラへと移り始めている兆候を示しています。例えば、過去2週間で、以前はドバイ近くのジェベル・アリを経由して中国へ運ばれていた石油化学製品用タンクコンテナの定期輸送が、現在はサラーラ経由に切り替わっています。

今後、オマーンは中継地点としてさらに重要になり、サラーラ港の混雑も増えると考えられます。ある程度の貨物増加には対応できますが、湾岸向けの貨物が大規模に流れ込めば、対応は簡単ではありません。

1月と2月に湾岸ルートを変更した荷主には、共通点が一つありました。それは、詳細な航路レベルの出荷データを有し、そのデータに基づいて行動できる分析能力を備えていたことです。

project44のPort Intelデータによると、サウジアラビアのダマームから中国・上海への便は、1月と2月にかけて数週間も続けて予定通り到着せず、定時運行失敗率が100%に達していました。そして、ドバイのジェベル・アリ港の積み替え滞留時間が長くなり始めた段階で、一部の石油・ガス関連輸出企業はルート変更の決断を下しました。

つまり、サラーラへの切り替えは、緊急事態になってから慌てて発動されたものではありません。この判断は、変化を吸収できる余裕があるうちに実行された、先を読んだ戦略的な運用の転換だったのです。

これが、サプライチェーンが「単に見える」ということと、サプライチェーン・インテリジェンスを活用して先回りして動くことの違いです。

今後の展望

依然としてペルシャ湾の港を使っている荷主にとって、今週末に下せる決断は、2月の時点よりもずっと厳しくなっています。たとえば、米国〜アラブ首長国連邦へ向かう航路では、予定していた船に貨物を載せられなかった積み残し率が増えています。閉鎖前の4週間だけでも、その割合は14%から21%へと上昇しています。現在、船舶の運航ルートの組み直しがおこなわれているため、これらの比率はさらに増える可能性があります。

長い目で見ると、アフリカ大陸の南端「喜望峰」を回るルートが重要になるでしょう。以前よりすでに、スエズ運河を通過していたアジア〜欧州間の貨物は、紅海でのフーシ派の活動によって混乱していましたが、今回さらに別の海の通り道も不安定になりました。その結果、一部の航路は遠回りしてコストをかけてでも運ぶか、いったん待って状況が落ち着くのを待つという選択に分かれることになります。

project44では、こうした動きを世界中のネットワークデータからリアルタイムで追い続け、サプライチェーン全体への影響を今後もお伝えしていきます。

この混乱期におけるお客様への支援

湾岸地域の状況は急速に変化しています。project44は、お客様に対し、港湾の混雑状況や船舶の動きをリアルタイムで確認できるデータを提供し、港がどれくらい混んでいるか、船がどこにいるのか、ほかに使える代替ルートはあるかといった判断をサポートするため、Port Intelの無償アクセスを提供しています。

project44は、データとAIを活用して、複雑な物流の状況をわかりやすくし、企業が適切な判断を下せるよう支援するプラットフォームです。本レポートは、2026年3月1日時点のproject44独自のネットワークから抽出された出荷レベルのデータに基づき分析しました。

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